傷がなかなか治らない
どのように考えてどのように治したらいいの?
【本記事はこのような方におすすめ】
・形成外科に興味がある医学生さんや研修医の先生方
・形成外科医を専攻しているが慢性創傷治療の考え方を知りたい方
・形成外科医がどのように慢性創傷に取り組んでいるかを知りたい他科の先生方
形成外科専門医として普段から創傷の治療もしている私が解説していきます。
私がどんな人か気になる方はこちらのプロフィール記事を参考にしてみてください。それでは宜しくお願いします。
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慢性創傷(なかなか治らない傷)のマネージメントについて考えます
創傷は止血・凝固期、炎症期、増殖期、成熟期の4つの過程を経て治癒へ向かいます。
これらのどこかに障害があると創傷治癒は遷延・停滞し、慢性創傷(いわゆる治りにくい傷)となります。
これらの障害を取り除き、適切に創傷をマネージメントするためには、創面の病態を適切に把握して評価する必要があります。
そのツールとしての考え方がTIME conceptであり、停滞している創傷治癒機転を正常に戻すことを目的としています。
慢性創傷に対する創傷マネージメントの理論として、FalangaによりWBP;wound bed preparation (創傷管理)の概念が提唱され、
それを具体的に実践するために、Schultらにより以下の4つの創傷治癒を阻害する因子の頭文字を取ってTIMEコンセプトが提案されました。
正常に創傷治癒過程を経るためには環境整備(WBP)が必要であり、具体的には阻害因子であるTIMEを取り除き、停滞している創傷治癒過程を正常へ導こうという考えです。
TIME conceptとは治癒を阻害する因子の頭文字から命名されています
代表的なデブリードマンを以下に示します。
外科的デブリードマン
メスやハサミ、電気メスなどにより壊死組織を外科的に切除する方法です。
近年では水流や超音波を利用したバーサジェットやウルトラキュレット®︎といった製品もあり、正常組織を残せたり出血が少ない、時間短縮に繋がるなどのメリットがあります。
自己融解デブリードマン
生体に備わる力を利用して壊死組織を除去する方法で、例えば創傷被覆剤(デュオアクティブ®︎など)で浸出液を適度に管理する方法があります。
物理的デブリードマン
物理的に壊死組織を除去する方法で、洗浄やwet-to-dry dressingなどがあります。近年有用な方法としてはVACultaの洗浄機能を利用してクレンズチョイスフォームを使用すると壊死組織の外科的デブリードマンが容易になります。
細菌が形成するバイオフィルムをやっつけるために、銀含有のドレッシング剤やヨウ素製剤(イソジンシュガーパスタ軟膏など)などの適切な外用薬を使用します。
整形外科領域のiSAP (intra-soft tissue antibiotics perfusion)を用いてバイオフィルムをやっつける試みも有用な方法としてあげられます。
iSAPは軟部組織の感染巣に対して、高濃度の抗菌薬を持続的に局所に還流させることで感染をコントロールし創を治癒に導きます。
浸出液をコントロールするのに有用な方法として、NPWT (局所陰圧閉鎖療法)が挙げられ、肉芽形成や疼痛コントロールなどにも効果があります。
また、外来でも使用できるNPWT (PICOやSNAP)もあるため使用できる場面が多いこともメリットのひとつである。
上皮化は創縁の表皮の基底細胞層(他には毛包や汗腺などの皮膚付属器)からしか進行しないということを知っておく必要があります。
対処としては創縁のリフレッシュやポケット切開が必要になることがあります。
TIME理論以外にもある創傷治癒遷延を引き起こす原因
創傷治癒を阻害する原因として局所(傷)にfocusをあてましたが、全体(患者自身)をみることも重要です。
既往症に糖尿病や末梢血管障害、腎不全、免疫不全、低栄養状態があればこちらの改善も必要になります。
特に低定要状態では創傷治癒に必要なビタミン(VitA,C,E)やミネラル(鉄、カルシウム、銅、亜鉛、アルギニン)なども不足しがちですので注意が必要です。
また、薬剤(ステロイド、喫煙、抗がん剤など)や放射線治療による創傷治癒遷延の可能性も見逃してはいけません。
なかなか治らない傷の中に隠れている見逃してはいけない疾患として、
皮膚癌や瘢痕癌(Marjolin’s ulcer)が背景に隠れている可能性もあるため、慢性創傷をみる経過で少しでも疑えば生検も考慮しましょう。
まとめ
TIME理論は私が研修医の時に、尊敬する形成外科の先生にまず教わったことです。
創傷にかかわる医師であれば知っておくべき、知っておいて損はない知識です。
これを機にぜひ創傷に興味をもっていただければ幸いです。
その他質問や相談などがあればお気軽にブログの問い合わせやtwitterまで連絡いただければお答えさせていただきます
参考文献
・Schultz GS, Sibbald RG, Falanga V, et al. Wound bed preparation : a systematic approach to wound management. Wound Repair Regen 11 : S1-28, 2003.
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