褥瘡(床ずれ)ってなに?
褥瘡(床ずれ)はどのように注意したらいいの?
治療はどうしたらいいの?
今回は褥瘡(床ずれ)に関して話をしていくよ!
【本記事はこういう人にオススメ】
・褥瘡(床ずれ)がなにか知りたい人
・褥瘡ができないようにするにはどうしたらいいかを知りたい人
・褥瘡ができてしまった場合どうすればいいか知りたい人
形成外科医として普段から褥瘡などの難治性創傷の診察や治療を行っている私が解説していきます。
私がどんな人かはこちらのプロフィール記事をぜひご参照ください。
褥瘡(床ずれ)とはなにかを解説します
褥瘡(床ずれ)ってなに?
日本褥瘡学会では褥瘡(床ずれ)を次のように定義しています。
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」
外力には圧迫やずれ力、摩擦力などが挙げられます。
褥瘡発生のメカニズムとしては以下の4つが挙げられ、
① 阻血性障害
② 再灌流障害
③ リンパ系機能障害
④ 機械的変形
これらの機序が作用して、細胞死や組織障害が起こります。
褥瘡(床ずれ)が出来る原因は?
褥瘡の発生要因には「個体要因」と「環境・ケア要因」があります。
○ 個体要因(局所因子や全身因子)
・基本的日常生活自立度
・病的骨突出
・関節拘縮
・栄養状態
・浮腫
・多汗、尿・便失禁
○ 環境・ケア要因
・体位変換
・体圧分散寝具
・頭側挙上
・座位保持
・スキンケア
・栄養補給
・リハビリテーション
・介護力
これらが一般的に褥瘡が発生しやすい状態に起因します。
また、一度褥瘡が発生すると創傷治癒が遷延し、難治化しやすくなります。
これら褥瘡の原因となる外力(圧迫やずれ力、摩擦力)を除去し、個体要因や環境・ケア要因を事前に評価し改善することが重要です。
それぞれの項目の予防やその方法は”褥瘡発生の予防とその方法を解説します”で説明していきます。
ここまでをわかりやすく解説します
圧迫やずれることにより傷ができることを褥瘡(床ずれ)と呼びます。
イメージとしてはベットで寝たきりの高齢者にできやすいです。
私達は同じ場所に圧がかかっても、痛みを感じると自然と寝返りをうつことで傷になること回避しています。
個体要因とは患者自身の問題のことです。
自分で姿勢を変えたり、寝返りを打てないと同じところに圧がかかり続けるため傷になります。
また、高度の痩せは骨が飛び出るため圧がかかりやすいですし、関節が固く拘縮しているとその部分が圧迫されやすくなります。
面積が小さくなると圧が高まるためです。
わかりやすい例としては、鉛筆の芯を指先に押し当てると小さな力でも痛くかんじますよね。
他には、浮腫や多汗、尿・便失禁があると皮膚が過湿潤になりびらんなどの傷ができやすくなります(おむつかぶれがイメージがつきやすいでしょうか)。
環境やケアの要因の問題としては、
体位変換が不十分(自分で寝返りや姿勢を変えれない人には適宜体位の変換が必要です)。
マットレスが硬い(極端な話フローリングに直接寝ると骨があたる部位がすぐ痛くなりますよね)。
頭部挙上や座位のときにずれたり傾いたりして圧力がかかる(姿勢のサポートであるポジショニングも大切です)。
スキンケアが不十分で乾燥や過湿潤により傷ができやすい。
リハビリテーション不足による関節の拘縮や筋力低下による寝たきりの進行(リスクの高い方には理策療法士や作業療法士の介入が必要になる場合もあります)。
最後に、
傷が治るには体の元気が必要です。
ただでさえ、弱ってきている高齢者の体に、このような傷になりやすい状況が重なると傷が治りにくいことは想像がつきやすいと思います。
褥瘡ができてから治療しても体の治る力が低下していますから、傷がなかなか治りません。
そうであるならば、そもそも褥瘡ができないように予防に重点をおこうではないかということが本記事で強調したいことです。
では、次の目次で褥瘡の予防やその方法を解説していきます。
褥瘡発生の予防とその方法を解説します
褥瘡予防のアルゴリズム
褥瘡ケアの基本は予防です。
予防のためには褥瘡発生の危険性を的確に評価することが大切です。
褥瘡予防のアルゴリズムを以下に示します。
褥瘡予防は基本である皮膚の観察からスタートします。
褥瘡が現時点ではなくとも褥瘡発生のリスクがないかを評価します(褥瘡発生の予測をする)。
褥瘡発生のリスクがあると判断した場合はそれぞれのリスク項目に対して予防ケアを立案し、実施・評価することとなります。
皮膚の観察
褥瘡予防の基本は皮膚の観察であり、皮膚の変化を見逃さないことが大切です。
褥瘡が発生しやすい部位(骨突出部や関節拘縮による皮膚密着部)を重点的に観察し、初期段階での発見に努めましょう。
発赤は重要な褥瘡の黄色信号(特に持続する発赤)です。
褥瘡の好発部位には生理的骨突出部位や痩せによる病的骨突出部位があります。
自分でフローリングに寝てみて痛いと感じるところが生理的な骨突出部位です。
病的骨突出部位は患者とベットの間に手を入れてみて圧を感じるところが注意点です。
基本的ですが、必ず寝衣やおむつ、靴下などを脱衣して皮膚を直接観察するようにしましょう。
褥瘡発生のリスク評価
客観的に褥瘡発生を予測・評価するために必要なツールです。
なぜ客観的な指標が必要かといいますと、後述しますが褥瘡ケアには様々な職種の連携があって初めて成り立ちます。
そのため、予測や評価する人が毎回同じとは限りません。
その度に予測や評価がバラバラではチームでの連携は取れないからです。
主な褥瘡発生リスク評価のツールとしては
褥瘡危険因子評価票、ブレーデンスケール、OHスケール、在宅版K式スケールがあります。
観察視点を統一し、経時的に観察・評価することで、介入を必要とする対象者を同定することができます。褥瘡発生リスクが高い療養者に対して早期から予防的介入を行うことが可能となります。
評価の項目としては、
日常生活自立度や基本動作能力の程度、知覚の認知、病的骨突出や関節拘縮の有無、栄養状態の低下、皮膚の過湿潤、皮膚の脆弱性、摩擦とずれなどがあり、それぞれのリスクに対して看護計画を立案し実施することになります。
外力(圧迫やずれ、摩擦)の排除
・体圧分散寝具(マットレス)
長時間、同一部位にかかる外力を減少させることが目的です。
自力で体位変換できない場合や骨突出がある場合などに有用です。
沈み込みや身体の凹凸に沿って包み込むことで接触面積が拡大し、圧が低くなります。
エアマットレス、ウレタンフォーム、ハイブリッド型などがありますが、
動きやすさを重視するか体圧分散を重視するかでどの素材を選択するかが変わってきます。
・体位変換(圧移動)
体圧分散寝具を使用していても体位変換は必須です。
体位変換は必ずしも2時間おきに行う必要はなく、褥瘡の状態などを評価しながら療養者に応じた時間間隔で行います。
夜間は療養者・介護者ともに睡眠確保も大事であることは忘れてはいけません。
体位変換後の圧抜きも忘れずに行いましょう。
便利な道具としては、
携帯型接触圧力測定器である簡易体圧計(パームQ)や圧抜きには滑りやすい素材のグローブ(スライディンググローブ)、移動・移乗にはスライディングシートやスライディングボードがあります。
携帯型接触圧力測定器 パームQ
骨突出部や傷があるところの圧を測定することで、床ずれ発生の危険度評価や使用しているマットレス(体圧分散寝具)が利用者に適しているかなどの評価が行えます。
また、ポジショニングをし直した際などしっかり圧が抜けているかの確認も行えます。
センサーパッドを測定したい位置に設置し、スイッチを押すだけの簡単な操作で、約12秒ほどで測定が完了します。
スライディンググローブ
すべりやすい素材のため、臀部などの重い箇所にも簡単に手を差し込むことができます。
圧を逃したり、体位変換の際に利用します。
療養者にも介護者にも負担の少ない介助が行えます。
スライディングシート
スライドシートを用いることで、療養者の移動や体位変換を容易にします。
療養者を無理に動かさないので、摩擦やずれ防止になります。
サイズがコンパクトなため、敷き込みが容易です。
また、介護者の負担が軽減され腰痛の予防や、時間短縮にも繋がります。
ポジショニング(身体支持のサポート)
姿勢全体の圧分散が体圧分散寝具の役割ですが、
様々な姿勢における身体各部のサポート(ポジショニング)も重要です。
拘縮がある方や側臥位、座位時などの体勢をサポートすること(姿勢が崩れないようにすること)は局所の圧分散や療養者の快適さを追求する上で大切です。
安定しない姿勢は他部位への過緊張や圧の上昇など療養者の不快さや褥瘡発生のリスクにつながります。
ポジショニングクッション
色々なサイズのバリエーションがあります。
へたらず長持ちすることや丸洗いも可能で、洗濯しても型崩れしにくくなっています。
是非ご参考までにどうぞ。
スキンケア
具体的な方法としては以下が挙げられます。
洗浄(清潔):皮膚からの刺激物、異物、感染源と取り除くことが目的です。その際の注意点としては、低刺激性の洗浄剤を使用することや、皮膚は擦らないことがあります。
コラージュフルフル石鹸シリーズ(持田ヘルスケア)
弱酸性で低刺激性であり、また抗真菌作用が期待できるためカビが繁殖しやすいデリケートゾーン(外陰部など)への使用もお勧めできます。
さらに、泡タイプのために皮膚を擦ることなく優しく洗浄できます。
ノブ フォーミングソープD (常盤薬品)
ノブの製品は敏感になった肌の日常のスキンケア(低刺激性)のために臨床皮膚医学に基づいて考えられています。
具体的には皮膚への安全性や製品の評価を医療機関で臨床テストを実施しています。
保湿:乾燥(ドライスキン)をケアする目的で行います。乾燥は皮膚のバリア機能の低下のみならず、痒みによる掻爬の原因ともなります。高齢者は特にドライスキンになりやすいため注意が必要です。
例:市販のバリアクリームやワセリンなどの油脂性軟膏など
保湿力が高い順に紹介しています。
軟膏タイプは保湿力が高いですが、ベタベタします。
ローションタイプはさらさらしており使いごごちがよいです。
クリームタイプはその中間です。
○ 軟膏タイプ
○ クリームタイプ
○ ローションタイプ
水分の除去(浸軟・浮腫・発汗の予防):皮膚の浸軟や浮腫は皮膚のバリア機能低下により傷を生じやすくなります。
被覆:長袖・長ズボン、伸展性のある寝衣、ファスナーや縫い代が皮膚にあたらないデザイン、吸湿性のよい素材などがあります。他にはアームカバー、レッグカバーも便利です。
スキンケアに関してはこちらの記事でも解説していますので是非参考にしてください。
排泄ケア
便や尿が皮膚への接触時間が長いと浸軟を生じ、皮膚への刺激となります。
また、便や感染尿はアルカリ性であるため余計に皮膚への刺激が強くなります。
便や尿失禁により排泄物が皮膚に付着し生じる皮膚障害は失禁関連皮膚炎(IAD:incontinence-associated dermatitis)と呼ばれます。
まずは、便や尿失禁の原因のアセスメントや性状コントロール、ケアの方法を検討する必要があります。
その上で予防的なスキンケアの方法としては、
失禁ケア用品・・・尿とりパッド、ポリエステル繊維綿、軟便対応パッドなどを使用して、排泄物と皮膚の接触を避けるようにします。
軟便対応パッド
清潔ケア・・・低刺激性の洗浄剤で擦らずに愛護的に行います。
清拭タオル
皮膚の保護・保湿・・・撥水性の皮膚保護剤を塗布する(市販のバリアクリームやワセリンなどの油脂性軟膏)ことで皮膚の乾燥を防ぎます。
他にはドライヤー乾燥は行わないことや、やわらかいタオルで抑えぶきすること、創周囲や骨突出部のマッサージはしないようにします。
撥水(はっすい)性の皮膚保護剤(汚れや外的刺激から皮膚を保護します。)には、リモイスコート、サニーナ、リモイスバリア、3Mキャビロンなどもあります。
リモイス®︎コート(アルケア)
撥水性を持つ保護膜が、汚れや外的刺激から皮膚を保護します。
保湿成分配合で、ダメージを受けやすい皮膚をしっとりなめらかに保ちます。
速乾性でべたつかず、上からテープなどの貼付も可能です。
リモイス®︎バリア(アルケア)
撥水性を持つ保護膜が、汚れや外的刺激から皮膚を保護します。
保湿成分配合で、ダメージを受けやすい皮膚をしっとりなめらかに保ちます。
キャビロン 非アルコール性皮膜スプレー(3M)
撥水性を持つ保護膜が、汚れや外的刺激から皮膚を保護します。
速乾性でべたつかず、上からテープなどの貼付も可能です。
栄養管理
栄養状態の低下は、褥瘡発生因子であるだけでなく、褥瘡が難治化する要因の1つでもあります。
体に元気がないと傷が治る力もなくなるということです。
適切な栄養補給や栄養補給の経路(経口、経腸、静脈)などを医師や管理栄養士と相談し、時には摂食嚥下リハビリテーションや口腔ケアを施行しながら評価・実施していく必要があります。
拘縮の予防
要介護3以上で中等度以上の介護が必要な療養者、日常生活自立度などから関節拘縮のリスクが高い療養者には特に介入が必要となってきます。
関節拘縮は褥瘡を発生させる一因となるのみならず、療養者の生活の質をさげ快適さを損なう原因となります。
理学療法士や作業療法士の指導を受けることが望ましいです。
また、ポジショングにより筋緊張を和らげることも拘縮予防の観点からは重要です。
介護力
特に在宅での家族による支援には限界があります。
地域包括ケアシステムという住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制の構築が推進されています。
住み慣れた地域で自分らしい暮らしを、人生の最期まで続けることができるように体制を整えようという仕組みです。
定期的な訪問診療等を提供する診療所
急変時などの一時的な入院の受け入れを実施する病院
医療機関と連携して看護を提供する訪問看護事業所
介護サービス事業所
などが在宅を支える医療機関としてあげられます。
ここに訪問看護師や在宅褥瘡医、ケアマネジャー、薬剤師、管理栄養士、理学療法士・作業療法士などの多職種が連携することで質の高い褥瘡ケアを提供できるようになります。
また、在宅療養者・家族・ヘルパーへの褥瘡教育も重要で、在宅における褥瘡対策チームの一員として褥瘡ケアの必要性を理解してもらうことが大切です。
褥瘡が出来てしまった場合の対処法を解説します
おおまかに以下のような考え方ができるでしょうか。
傷の治癒を目指す場合
基礎疾患のコントロールや全身状態がよく、再発防止のための予防ケアが十分に実施できる環境が整っている場合は、創治癒を目指すことが可能になります。
その場合は軟膏治療による保存的加療のみならず手術加療も選択肢としてあがってきます。
現状維持を目指す場合
感染を起こさず、これ以上褥瘡が悪化しないように予防ケアに努め、褥瘡と付き合っていく方法です。
全身状態が悪い療養者の場合はこの方法を取らざるを得ないことが多いです。
ですので、褥瘡にならないようにする予防ケアが重要なのです。
しかし、この方法は治癒を目指さない消極的な治療ではなく、療養者やその家族の生活の質の向上を目指したいわゆる”緩和ケア”であると考えることもできます。
入院治療が必要な場合
感染を起こしてる場合は壊死組織を除去したり切開・排膿したりの外科的処置が必要となる場合があります。
創治癒が目指せる場合であればその後手術加療も選択肢となるが、
多くは現状維持を目指した予防ケアがメインとなるため在宅が困難であれば慢性期病院や療養型施設への入院を検討することになります。
まとめ
褥瘡ができたらどうするかではなく、褥瘡を発生させないためにどうするか、というアプローチが重要です。
褥瘡はその発生要因から難治化しやすい(治りにくい)ことが多いため、尚更に予防ケアが大切となってくるのです。
これからは高齢化社会が進んでいくため、より一層の予防ケアが重要になってくると思います。
参考文献など
・一般社団法人 日本褥瘡学会.在宅褥瘡テキストブック.照林社.2020
・トータルケアを目指す 褥瘡予防のためのポジショニング.照林社.2018
・一般社団法人 日本褥瘡学会.http://www.jspu.org
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